昨年末に話題の映画「アバター」を観ました。ジェームズ・キャメロンの久しぶりの大作でもありますが、その映像技術の進歩には驚くべきものがありました。舞台は森が世界を支配する地球から遠く離れた衛星パンドラ、地球人がそこにしかない資源を求めて訪れます。そこには先住民のナヴィ族が自然と共生しています。2つの異文化の交流と衝突、そしてその自然との関係が軸となり物語が進んでいきます。
この映画を観ていて、あるSF小説を思い出しました。アーシュラ・K・ル・グィンの「世界の合言葉は森」(原題:The Word for World is Forest,1972)です。今回はその本について書いてみます。
初めに著者のル・グィンですが、女流SF作家として既に高い評価を受けています。日本では近年アニメ化もされたゲド戦記で有名かもしれません。「闇の左手」、「所有せざる人々」はSF小説史上に残る名作です。
さて、この「世界の合言葉は森」の物語は、地球の植民地となったある惑星ニュー・タヒチが舞台です。地球には森林がなくなり木材が貴重な資源となっています。この惑星には豊かな森林があります。それらを伐採して地球に運ぼうというのです。そこには人間よりも小さな1メートルくらいのアスシー人が住んでいます。地球人はコロニーを作り、そこにアスシー人を囲い込み半ば強制的な労働に従事させています。アスシー人は森の中に住み「夢見」を行い、神話的な世界に生きています。地球人がやってきて労働に従事させても反抗する風でもありません。そして少しずつ森がなくなり生態系が破壊されていきます。そうこうするうちに一人のアスシー人が目覚め抵抗を始めます。それが、地球人との殺し合いに発展していく...というストーリーです。
ル・グィンの物語には対立する存在がよく出てきます。ここでも、地球人と現地人、徹底的に破壊しようとする軍人に、間に入って悩む民俗学者などなど。さらに、森の中で生きること、「夢見」の様子が巧みに描かれます。物語としては悲劇ですが、外からの侵略者によって今までになかった「何か」が呼び起こされ、その民族に新たな「神話」が加わる物語と読めます。このように地球に存在しない世界を創造し、そこで起こる出来事を描くことで結局自分自身のことを映し出すという手法はSFやファンタジー小説の大きな魅力になっています。
この物語と初めに書いた「アバター」はとても似た物語だと思いました。一見すると遠い地球外の星を舞台にした現実離れした話のように思えても、どこか既視感を覚えます。
この二つの物語共に、かつて西洋文明社会が世界中に進出して植民地を作り、現地人と軋轢を生んだ歴史と重なってきます。西洋社会は「西洋の持つ文化こそが進化した最も優れたものであり、その他の地域や民族は未開だから啓蒙しなくてはならない」という思想を持って植民地化と支配を行ってきました。そこには悪意はなく高い理想があったかもしれません。しかし、西洋文明も、そういう絶対的なものはないということがようやくここに来てわかってきたようだ、と「アバター」を見て感じました。
一方で、ル・グィンの「世界の合言葉は森」は70年代初頭に書かれました。今、読んでみるとそのような対立の視点だけでなく、自然を破壊することによる環境の激変もテーマとして描かれています。そういった意味でも、優れたSF作品は未来を予言しているのです。
名作ライブ 鈴木
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