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(36) 香港映画の宝 「ウォン・カーワァイ」はゴダールか

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by meisakulive 作成日 2009年12月02日
 前回に続き香港映画の紹介です。ピーター・チャンとはまた異なる作風の香港映画監督のウォン・カーワァイについてです。彼も現役ですが、90年代に名作をたくさん残しています。

 まずは主要作品リストから。

「欲望の翼」阿飛正傅/DAYS OF BEING WILD(1990)
「楽園の瑕(きず)」東邪西毒/ASHES OF TIME(1994)
「恋する惑星」重慶森林/CHUNGKING EXPRESS(1994)
「天使の涙」堕落天使/FALLEN ANGELS(1995)
「ブエノスアイレス」春光乍洩/HAPPY TOGETHER(1997)
「花様年華(かようねんか)」花様年華/IN THE MOOD FOR LOVE(2000)
「2046」2046 (2004)
「マイ・ブルーベリー・ナイツ」MY BLUEBERRY NIGHTS(2007)

 どれもが個性的です。香港映画の場合、邦題と広東語の原題、そして英語タイトルの3つが並ぶことになります。それを味わうだけでもイメージが膨らみます。個人的な好みはあると思いますが、カーワァイ作品は質が高くて、どれを見ても損はないはずです。

 この中でも個人的には香港の中国返還前の作品が勢いがあって特に好きです。

 「恋する惑星」「天使の涙」の2本は姉妹のような関係ですが、そのスタイリッシュな映像感覚は西洋のそれをも凌ぐ斬新さを持っています。

 もし、香港映画をダサいとかカンフーのようなアクション映画のイメージで捉えている人がいるとしたら、それは大きな間違いです。(もちろんそれらもあるから面白いのですが)
その代表格がウォン・カーワァイ作品です。映像にしても、例えば撮影のクリストファー・ドイルのカメラワークは、スローモーションや広角レンズで意図的に歪んだ映像を作るなど、とてもアート的です。フランス映画のヌーベルヴァーグを思い起こさせます。

 さらに、カーワァイ作品には即興的に飛び出てくるセリフがとてもおしゃれです。

 「その時、彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした 」「記憶の缶詰に期限がないといい。」などのモノローグは独特の雰囲気を醸し出します。
記号化された数字が随所に出てきますが、一見無機質な中にそこに意味を見出そうという意志が働くのも新鮮です。これらが、香港の混沌としたネオン輝くまさにアジア的風景と不思議とマッチします。

 出てくる俳優、女優もとても個性的で魅力的です。
 「恋する惑星」の金城武は今や国際的なスターになりました。フェイ・ウォンは私のもっとも愛するチャイニーズ・ポップスの歌姫です。その他にも、今でいうところも草食系の警官役のトニー・レオンや、金髪でマフィアに立ち向かうブリジッド・リンなど輝いていました。ストーリーも2つのすれ違いの恋物語が重層的に響きあう構成になっています。

 「天使の涙」も同じような構成になっています。こちらには殺し屋のレオン・ライが渋い演技を見せてくれます。フィルム・ノワールの雰囲気はありますが、本場もののダークさやハードさではなく、やはりアジア的な体温を感じるところがとてもユニークです。ここでも金城君が話すことができない青年の役でいい味出しています。(話せなくなった理由が小さい時にパイナップルの缶詰を食べすぎたからというのもユニーク)他にもエージェント役のミシェル・リーが妖艶だったし、キュートなカレン・モクにチャーリー・ヤンの女優陣が華を競っています。

 この2つの作品には、もちろんストーリーはあってそれを追いながら話が進んでいくのですが、それを説明するというよりはその時その時の一瞬を楽しむ的な映画です。つまりとても感覚的なのです。音楽でいうところの「音色の変化」という記号化が最も難しいパラメータを映像の世界でやっているといったらよいでしょうか。だから、何度見ても飽きることがなく新しい発見をすることができるといった映画なのです。

 それと音楽の使い方の巧みさも特筆ものです。既存の曲がありえないくらいそのシーンにはまってきます。この魔術にはタランティーノも脱帽でしょう。フェイ・ウォンの「夢中人」ママス & パパスの「カリフォルニア・ドリーミン」、それに「オンリー・ユー」は、この映画のためにあるように鳴り響きます。これを聞くだけで盛り上がること確実です。

 もう一つ、これらの映画には香港ロケで実際に存在する場所が多数出てきます。重慶大厦(チュンキン・マンションというインド人がたむろするディープなビルが出てきます。MIDNIGHT EXPRESSというファーストフード店ではフェイ・ウォンが働いています。
他にも、カレン・モクとレオン・ライが一緒に入ったマクドナルドなど、その場所が特定できるところが多数あります。

 私は96年に香港に行きました。中国返還の1年前のことです。この映画の記憶も新しく、それらのロケ地巡りをして悦に入ったことが懐かしく思い出されます。

 その当時の香港は返還への不安はあるものの、まだ宝石箱をひっくり返したような輝きがありました。あの密度の高さは東京でも味わえないものです。映画「ブレード・ランナー」の世界が実現していることに驚きました。東洋と西洋のメルティング・スポットを目の当たりにできたのです。まぁ、今考えると蝋燭の炎が最後に一瞬明るく燃えるような落日の輝きだったのかもしれませんが。

(余談ですが、当時の香港は、空港が街のすぐ隣にあったために安全対策の理由でネオンを点滅させることが禁じられていました。そのため明るいネオンはビシッとそのまま輝き続けます。これが日本の都市のようなやたら点滅する照明と違ってとても主張が感じられていいのです。)

 香港は、このような等身大の魅力と夢見るようなファンタジーが同居しているところです。そこに迷い込んだ人は私も含めて多数いました。(しかし、ちょっとこのところ元気がないのが残念です。今の様子はどうなんでしょうか。)

 個人的な話になってしまいましたが、活気ある当時を垣間見ることができる香港映画は今も輝きを失っていません。(と思いたいもの)

 名作ライブ 鈴木


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