フェルメールの1枚の絵を巡る物語についての続きです。今回は、次のタイトルの小説とその映画化作品を取り上げます。
「真珠の耳飾りの少女」(原題:Girl With a Pearl Earring)
トレイシー シュヴァリエ著(1999)(白水社刊 2004)
「真珠の耳飾りの少女」(原題:Girl With a Pearl Earring)
ピーター・ウェーバー監督作品(イギリス・ルクセンブルグ)100分(2003)
原題、邦題とも全て同じなのでわかりやすいです。
まずは小説の方からです。
1665年のデルフトは運河を前にしたフェルメールの家が舞台です。彼はそこで妻と多くの子供、義理の母、さらには召使いたちと暮らしています。アトリエもあります。そこから多くの名作が生み出されました。ここまでは史実に基づいています。
そこに、使用人として一人の美しい少女が働きに来ることになりました。フリートという名前ですが、想像上の人物です。そして、この少女の一人称の形で物語がつむぎ出されていくことになります。召使いですから、色々な雑用をこなさなくてはなりません。子供たちや奥方から嫌がらせを受けたりもします。そのような日常の中、アトリエの整理を任されるようになり、少しずつ画家の創作の現場に入り込むことになります。もともとフリートは感受性に優れ美的センスを持っていました。色彩や光に関する感性に目覚めていきます。その喜びがフリートの言葉で描写されるのですが、これがとても初々しいというか瑞々しくて、その健気さには読書をしている我々も思い切り感情移入できます。
フェルメールは主人でもあると同時に優れた芸術家です。その尊敬の念や憧れのような感情もうまく表現されています。この小説にはまずこの語り口に魅了されます。
さて、フェルメールも次第にフリートの感性に気が付き手ほどきをしたり、絵の具の調合を任せるようになります。そしてお互いに美を仲立ちにした仄かな感情が芽生えていきます。そして、フリートはついに請われて青いターバンを巻き、真珠の耳飾りを付け、画家のモデルになるのでした。
実際には、この名画のモデルは特定できていなくて(諸説あるようですが)、この小説は想像上の物語です。しかし、誰だかはっきりわかっていないということが幸いしたと思えてきます。美の感性を共有できる若くて美しい少女が一人の天才画家のミューズとなったという物語は、その絵の永遠の生命と共に我々に強い共感を持って迫ってきます。そういう意味では、この小説は美の生まれる瞬間を描いた物語でもあり、一人の少女の目を通して天才画家との淡い恋心を描いた青春小説として読むこともできます。とても後味のよい本でした。
次は映画の方です。
この小説を基にした映画化作品です。小説の物語と映画は見事にシンクロしています。しかし、受ける印象はかなり異なります。小説の方は、フリートの語りで書き進められているため、少女の目線で我々も見ることになります。一方、映画の方では、彼女もフェルメールも内情の告白を言葉に出すことはありません。寡黙なくらい抑えられています。お互いの感情は映像と演技で我々は想像することになります。日本映画では、このようなお互いの雰囲気でわからせるという演出が多用されますが、洋画では珍しいことです。つまり、我々は俯瞰する視点でお互いの内面を推し量ることになります。この辺りには監督の手腕を感じるところです。
特筆すべきことは他にもあります。当時のデルフトの様子、そして何といってもフェルメールのアトリエが見事に再現されていました。これは美術スタッフのなせる技です。映画が総合芸術である所以でもあるでしょう。
もう一つ何といっても主人公のグリート(映画ではそう呼ばれていた)を演じたスカーレット・ヨハンソンの魅力です。少女から大人になる瞬間の揺れ動く演技が素晴らしいです。一途さ、健気さ、憧れ、淡い恋心をちょっとした顔の表情で表現していました。特にクライマックスの絵のモデルになるときの表情は官能的にさえ感じられます。(今でこそ彼女はセクシーさが魅力となっていますが、このような10代の少女時代の演技はそのときだけにしかできないので、ある意味とても貴重な作品になることでしょう。)
小説も映画もミューズを描いたことには変わりはありませんが、異なる視点からの表現はメディアの違いでもあります。わかっている史実から想像力で物語をつむぎ出す、これも創造のなせる技であり、我々もそれを存分に味わうことができます。
この作品はどちらだけも十分魅力的でありますが、できれば両者を合わせてみるとさらに興味深い体験ができると思います。
名作ライブ 鈴木
コメント
この絵が日本にやってくる by meisakulive (2009年10月27日)
しかも絵の写真入りだったので、朝見たときに、そのあまりの「シンクロニシティ」に驚きました。
でも、来るのは12年と2年後とのこと。大分先のことになります。
名作ライブ 鈴木