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(21) 「波の盆」-2 武満徹の彼岸の音楽

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by meisakulive 作成日 2009年08月25日
 前回に続き「波の盆」です。この作品の音楽は武満徹(1930-1996)が書いています。武満徹は、いわゆる西洋音楽の中の現代音楽というジャンルの作曲家です。多くの管弦楽曲、ピアノ曲、ギター曲などを残しています。しかしその中には日本的な感性が色濃く反映されています。その西洋と東洋を越えたところから聴こえてくる独特の響きに多くの人が魅了されました。海外にも多くの信奉者を持っています。私もその一人です。今から10年少し前に亡くなったときは多くの人がその早すぎる死を悲しみました。

 さて、武満さんの音楽は一見(一聴)すると、難解そうな現代音楽です。そのスコアを見たことがありますが、とても簡単に理解できそうには思えないようなものです。確かに、西洋近代音楽の例えばシェーンベルク、ウェーベルン、ベルクなど新ウィーン学派の作曲家の延長線上にあるように聴こえることもあります。現代音楽というとメロディーもわからなくて調性も感じられずリズムも複雑な構造の音楽というイメージがあるかもしれません。西洋のクラシック音楽は20世紀に入り袋小路に迷い込んでしまった感があります。しかし、もともと日本の伝統音楽は、調性や和声、正確なリズムを刻むといった西洋音楽とは違う規範の上に成り立っています。武満さんの音楽には、そのような西洋音楽の中に日本的な響きを感じとることができる類まれな音楽となっています。多分、後世には現代の音楽の多くは残ることはないでしょうが、武満徹の音楽だけは確実に伝えられていくと思います。

 武満さんの音楽にはもっと親しみやすい音楽もたくさんあります。特筆すべきは映画音楽でしょうか。100本を越す作品が残されています。何かで読んだことがありますが、武満さんは年間300本以上も映画を観ていたそうです。そのような中から映像と音楽の融合の感性を磨いていったのだと思います。

 前置きが長くなりました。「波の盆」の音楽です。
この音楽は、前回書いた実相寺昭雄監督のドラマに付随する曲として書き下ろされた音楽です。その主題はとても美しい旋律を持つ音楽となっています。その主題が様々なオーケストレーションのマジックで変奏されていきます。そういう意味では複雑な現代音楽ではなくオーソドックスなスタイルを持っているので、これで拒否感を持つ人はまずいないと思います。ただ、それだけならならば単なる綺麗な音楽で終わってしまいますが、チェレスタのような金属的な楽器を使ったり、ドラマに合わせて緊張感を感じさせる和声などの味付けはさすがです。演奏は、岩城宏之指揮の東京コンサーツで、基本的にはオーケストラ曲で構成されています。全編を通してワーグナーの「ジークフリート牧歌」を思い出させるような安らぎに満ちています。

 ドラマは83年制作ですが、直後にレコードが出たらしいのですが、すぐ廃盤になったようです。私はリアルタイムではこのドラマを見ていないのでわからなかったのですが、「波の盆」の音楽がとても心に染み入る美しいものだという“うわさ”をその後聞いていたので、とても気になっていました。ですが、肝心のレコードが手に入りません。そうこうしているうちに武満さんが亡くなって、しばらくしてこのレコードがCDとなって再発されたのです。しかし、それも独立系レーベルからの発売であまり宣伝もしないし、知ったときには店頭になくて散々探して今から7,8年前にようやく手に入れることができたのです。

 わずか30数分の音楽ですが、期待以上のすばらしい音楽でした。一時期は繰り返し聴いたものです。車の中やiPodでもよく聞きましたが、この音楽が流れると周りの風景が一瞬静止して異次元に入ったような不思議な感覚を持ったこともよく覚えています。

 ドラマのDVDを手に入れて見たのはその後です。まさに彼岸の音楽です。ドラマの中で使われているシーンを見て、主人公の妻のミサの魂の平安を表す旋律がメインテーマになっていることがよく理解できました。しかし、映像と離れた音楽作品として繰り返し聞くことに値する音楽です。

 こういう作品が、現在はまた廃盤となって入手が難しいようです。売れないから作らないという理屈はわかるのですが、こういう作品が多くの人に知られることなく埋もれてしまうのはまったくもって寂しいことです。ベストセラーよりロングセラーに価値があるのだとつくづく思います。(ちなみにアマゾンでは、現在、在庫はなく中古で、DVDが9800円、CDが5500円となっています。それだけの価値があるとは思いますが、これではちょっとなかなか買えませんね)

 この演奏をしている岩城宏之さんも数年前に亡くなりました。「波の盆」を作り出した鬼籍に入った作家たちを偲んで今年の夏、もう一度この作品に触れたのでした。

 名作ライブ 鈴木


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