今年もお盆と共に終戦記念日を迎えました。毎年その暑さと共に戦争のことが思い出されます。といっても、多くの人は戦後生まれで直接体験はしていません。しかし多くの語り部による戦争体験の記録、そしてたくさんの人たちによって描かれた文学、美術、映画、音楽などの作品の中にその記憶が留められることによって、これからも語り継がれていくことでしょう。
そんな中、思い出した作品があり何年か振りに見たものを紹介します。
その作品は映像作品の「波の盆」です。1983年にテレビドラマとして作られました。監督が実相寺昭雄、脚本が倉本聡、音楽が武満徹によって作られました。
これは秀作です。戦争によって引き裂かれた家族を静かに語ります。直接的に戦争を語るのではありません。まず舞台が全編ともハワイなのです。日本は海のかなたの祖国として描かれます。
1983年のハワイ・マウイ島で物語が進みます。主人公は日系一世の山波公作(笠智衆)です。ハワイに移住して以来、床屋を家業として家族を作りアメリカ社会の中で生きてきました。現在は長年連れ添った妻ミサ(加藤治子)に先立たれたばかりで、仕事を引退して追憶に浸る毎日を過ごしています。そんなある日、遠い昔に勘当した四男・作太郎の娘・美沙が、亡くなった妻に宛てた手紙を携えて日本からやってきたのです。作太郎は2世でアメリカ国籍を持ちます。作太郎は家族や日本人社会によいことと思って米軍に協力しました。寄付を集めたお金で爆撃機が作られ、それによって行なわれた空襲によってミサの日本の家族が殺されることになったのでした。戦後、作太郎は日本に渡り公作とお互いの気持ちを明かすことなく3年前に広島で亡くなりました。
孫の訪問は嬉しいもののそのわだかまりから中々心を開くことができません。そんな公作に亡き妻が思い出と共に優しく語りかけてくるのでした。
この海辺で公作が妻と語り合うシーンがとても幻想的で美しいのです。そしてバックに流れる武満徹の美しい彼岸の音楽が重なります。本当に自分はミサの心の中をわかっていたのだろうか? 現実と過去の回想シーンが交錯し、妻と交わす会話がとても胸を打ちます。ハワイの夕焼けも綺麗にとれていました。
最後のシーンは、日系社会で行なわれる盆踊りと精霊流しで終わります。盆踊りで公作は妻と作太郎の姿を見つけます。そこであの世にいる作太郎の本当の気持ちを知ることになります。日本はハワイのはるかかなたの西方浄土です。新盆の精霊流しでミサの魂を祖国に帰してやるということが暗示されます。そうして公作も魂の平安を得ることができるのですが、それは本当の別れも意味するのです。「波の盆」というタイトルが深く響いてきます。
笠智衆の演技と加藤治子の慈愛に満ちた表情が素晴らしいです。しかし今では笠智衆と実相寺昭雄監督も共に鬼籍に入ってしまいました。戦争を直接描くのではなく複雑な世の中に翻弄された日系家族を描くことによって静かに戦争の悲劇を訴えかけてきます。日系移民の揺れる心の葛藤を描くことで日本にいては気が付かないことも教えてくれます。凡庸な戦争映画とは一線を画する作品です。
このような作品がテレビドラマとして作られたのも特筆ものです。日本テレビとテレビマンユニオン制作です。昭和58年度文化庁芸術祭賞を受けているのも納得の作品です。
民放のテレビ番組でも映画を凌ぐこのような優れた作品を作れるのです。多分予算の関係だと思いますが、照明や音声など少々単調でビデオ映像独特のシャープさが気になりましたが、映画的手法で制作したら本当に素晴らしい作品になると思います。
テレビマンの人たちも今は不況で大変だと思いますが、強い意志を持ってよい作品を作ってもらいたいと思います。
この作品の映像は数年前にようやく手にいれたDVDで観ることができました。
実はそれ以前から「波の盆」の音楽はずっと聴いていたのです。武満徹が書いています。これはとても美しい音楽です。私にとっては映像以上に思い入れのある作品です。この音楽があるからこそこの映像も生命力を保ち続けるのだと思っています。
その音楽については、武満徹の回想と共に次回にすることにします。
名作ライブ 鈴木
コメント